2016 / 03 / 12

2015年度 駒場祭レポート「すしピン」

こんにちは!デザイナーの酒井です。今回の記事は駒場祭の話です。

今回紹介する展示について

2015年度駒場祭で、designing plus nineは「遊び」というテーマで展示を行いました。制作を始めるにあたって、まずどのような企画を行うか全員で案を出し合い、各々のやりたいことに合わせてチームに分かれます。私が担当したのはすしピンと展示設計で、今回はすしピンについて書いていきます。

突然ですが、消しピンというゲームは知っているでしょうか?小学生の頃やったという人も多いのではないでしょうか。designing plus nine でも、昔よく休み時間に遊んだ!というような声が上がりました。

知らない人のために簡単にルールを説明します。消しピンというのは消しゴムを使って複数人で遊ぶゲームです。「自分の消しゴムを指で弾いて、相手の消しゴムに当てて机から落とし、最後まで残っていた人の勝ち」というのが基本的なルールなのですが、ここからさらに色々なローカルルールが作られることもあり、地域によって違った遊び方をされているようです。今回私たちのグループは、この消しピンをベースに作品を作っていくことに決めました。

制作のコンセプト固め

制作を始めるにあたって最初にコンセプトを固めるのですが、そのためにまず消しピンを皆でやってみるところから始めました。100均に行って、消しゴムやカスタマイズ用の定規、ねりけしを買い、メンバー5人分の席を確保できるカフェに向かいます。皆消しピンをやるのは小学生の頃以来で、ずいぶん久しぶりだという話をしていたのですが、遊んでみるとかなり盛り上がりました。(まさか夜の11時に渋谷のカフェで消しピンをやる日が来ようとは思っていませんでしたが…。)

遊んでみて気づいたのが、ゲームをしているとコミュニケーションが自然と生まれるということです。ルールも簡単ですし、言語・身体能力に関わらず誰でも楽しむことができます。そこでコミュニケーションという点にフォーカスすることに決め、コンセプトを「コミュニケーションのための消しピン」に決定しました。 食事の際に四角いテーブルよりも丸いテーブルの方が全員が向き合うことができるためコミュニケーションが生まれやすいという話があります。この話を採用して、消しピンのフィールドとして円形の台を制作することに決めました。また、遊んでいるときに、消しゴムが遠くに行ってしまうと自分の席から弾きにくいといった問題点が浮上します。 そこで、台をターンテーブルのように回せるようにすることで自分が動かなくても消しゴムをはじけるようにする、という解決策をとることにしました。

ここで、今後の進め方の計画を具体的に立てます。まず、消しピンフィールドの制作、消しゴムとルールブックの制作、ゲームデザイン(ルールやネーミングなど)の3点についてそれぞれ担当を決めました。今回私は、東大の高野と一緒に消しピンフィールドの制作を担当することになりました。

CGを使って設計し、確かめてから作る

ところで、私たちが普段やっていることを少し説明したいと思います。私は藝大工芸科で、大学でも普段から木や金属といったような素材を加工して作品制作をしています。高野は主に映像制作をしており、3DCGなども普段から扱っています。

CGを使った設計の様子

実制作に入る前にまず2人でデザインを詰めたのですが、高野が最初に3DCGでビジュアルを作ってくれました。これがその画像です。3DCGの強みの一つが、きわめて正確に寸法を出すことができるという点です。通常、紙の上だけで設計していると適切なサイズを判断するのがとても難しいのですが、3DCGを使うことで短時間で正確な判断をすることができます。もう一つの強みが、具体的なビジュアルを出すことができるため第三者にイメージを伝えやすいという点です。これにより、チーム内で正確なイメージの共有をすることができます。制作をしていく過程で藝大の木工の先生に助言をいただいたのですが、そういった場面でもやり取りのしやすさを感じました。

CGを使った設計の様子 CGを使った設計の様子

イメージを具体的にしつつ、制作を進めていくうえで必要な細部の寸法を設計図に落とし込みます。設計図をきちんと書くことは、効率良く制作を進めていくうえでとても重要です。

同時に材料について考えます。材料を木にするということは最初に決めてあったのですが、木といっても様々な種類があります。今回は、予算と扱いやすさの点からシナベニヤとMDFを使用することにしました。シナベニヤは薄い木の板を貼り合わせて作られ、安価でありながら木の美しさを得られることが特徴です。MDFは木材を繊維状にほぐして接着剤などを混ぜ、板状にしたものです。紙の質に近いかもしれません。

実際の制作へ

デザインが決定したら、実制作に移ります。これに関しては私が担当しました。

デザインの実制作の様子デザインの実制作の様子

まず蓋の方ですが、画像のように薄い円盤に小さい部品を12個接着し、そこからルーターという機械を用いて円形に削り出していくことにしました。本体の方は、小物を入れる穴の深さに合わせて3枚の板を用意し、先に穴をくりぬいてから接着するという方法を取っています。作り方はこの他にも色々想定できますが、入手できる材料と強度を考慮すると、この方法がベストだという結論に至りました。制作過程の写真を見せられればよかったのですが今回は用意できず残念です…。

制作には藝大の取手校地にある木工の工房を使わせていただきました。工房には大規模な機械などが揃っているため、個人ではなかなかできないような加工もすることができます。私自身木材の加工の経験はあったものの工房の機械は扱ったことがなかったので戸惑う部分もありましたが、制作していてとても楽しかったです。designing plus nine には色々な学科の学生がいるので、その学生を通して専門分野に特化した学校施設を利用できるのもdesigning plus nine の良さだと思います。

完成までかかった期間は3週間ほどでした。最初にdesigning plus nine のミーティングに完成品を持って行った際には、実際にこれを使って消しピンで遊び、大いに盛り上がりました。

実際の制作には制約が多く伴います。予算、材料による形状の制限、制作時間、そもそもその加工が現実的にできるのか…など。ですが、それをどうにか工夫してクリアしていくことで完成度の高いプロダクトを作ることができるのではないかと思います。

コミュニケーションが生まれた展示

展示の様子

当日の展示風景です。「すしピン」という名前の通り、消しゴムのデザインは寿司をモチーフにしています。その場で遊べるように、台の上に消しゴムを置き、遊び方の説明書を隣に置いた状態でセッティングしました。実際遊んでもらえるかどうかドキドキして見ていましたが、色んな人に遊んでもらうことができました。自分たちが作ったもので遊んでもらえるのは本当にうれしいものです。やはり大人よりも小学生の方が消しピンを知っているようで、子供が親御さんに遊び方を説明している場面なども見られました。

おわりに

今回は成果物はアナログですが、デジタルの強みも最大限活かすことができたのがとても大きかった、というのが感想です。私では最初にあげたようなビジュアルは作れませんでしたし、それぞれの得意分野を活かすことができた良い制作でした。私たち以外のチームも、各々の強みを生かして作品を制作していて、全体的にクオリティも高くとても楽しい展示になったと思います。